「経営戦略」という言葉は耳にするものの、その意味や経営戦術・経営計画との違いをはっきり説明できる人は意外と少ないものです。本記事では、経営戦略の定義から3つの分類、似た用語との違い、立て方の4ステップ、代表的な戦略タイプまでを初心者向けに整理して解説します。本記事でわかること経営戦略の定義と3つの分類経営戦術・経営計画など関連用語との違い経営戦略を立てる4つのステップ代表的な5つの戦略タイプ立案に役立つフレームワーク経営戦略とは経営戦略(Management Strategy)とは、企業が経営目標を達成し、継続的に成長するための中長期的な方針や計画のことです。限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を、競争優位を築くためにどう配分するかを定める意思決定の体系であり、自社の現状分析や競合との差別化までを含む幅広い概念です。経営戦略の特徴は次の3点に整理できます。対象が中長期(おおむね3年以上)であること企業の競争優位の確立を目的とすること経営資源の配分という選択と集中を伴うこと日々の業務改善や短期的な施策とは区別されます。経営戦略の必要性と目的経営戦略が企業に不可欠である理由は、移り変わりが激しい市場環境に適応し、限られた資源を最大限に活かすためです。経営戦略の必要性生成AIの急速な普及、ビジネスのグローバル化、慢性的な人手不足、消費者ニーズの多様化など、近年の市場環境はかつてないスピードで変動しています。こうした変化に翻弄されず持続的に成長するためには、場当たり的ではなく将来を見据えた行動指針が必要です。経営戦略はその指針の役割を果たします。経営戦略の目的経営戦略の目的は、大きく3点に整理できます。行動計画の明確化自社の現状分析と将来予測から優先順位を定めること社内共有全社員が同じ方向を向いて動ける状態を作ること市場変化への適応想定外の事態にも柔軟に判断できる土台を持つこと経営戦略の3つの分類経営戦略は、対象範囲によって『全社戦略』『事業戦略』『機能戦略』の3階層に分類されます。階層が下がるほど対象範囲が狭く、より具体的な内容になります。3階層の概要第1層全社戦略(企業戦略)企業・グループ全体の方向性主担当者は経営層第2層事業戦略個別事業の方向性主担当者は事業責任者第3層機能戦略部門レベルの計画主担当者は部門長第1層:全社戦略全社戦略は、企業やグループ全体の方向性を定める計画や方針で、企業戦略とも呼ばれます。事業の新規参入や撤退、予算や人的資源の配分など『今後、企業としてどう動くべきか』を経営層が決定します。通常はこの全社戦略を起点に、次の事業戦略が立案されます。第2層:事業戦略事業戦略は、個別事業の方向性を定める計画や方針です。全社戦略が事業の取捨選択を扱うのに対し、事業戦略は当該事業の内部の動きを扱います。具体例は、市場動向の把握、競合他社との差別化、事業内の経営資源の分配などです。単一事業の中小企業では『全社戦略=事業戦略』となるケースもあります。第3層:機能戦略機能戦略は、事業戦略を実行するために必要となる、部門レベルの計画や方針です。マーケティング戦略・営業戦略・人事戦略・商品開発戦略などが該当します。事業戦略の実現可能性は、最終的に機能戦略の質に左右されます。経営戦略と似た用語との違い経営戦略と混同されがちな6つの用語との違いを整理します。まず全体像を以下の比較表で押さえてください。【経営戦略と関連用語の比較表】用語意味焦点時間軸経営戦略経営目標達成のための方針方向性の決定中長期(3年〜)企業戦略経営戦略の一部(全社の方向性)事業ポートフォリオ中長期事業戦略経営戦略の一部(事業の方向性)個別事業の競争中長期経営戦術経営戦略を実行する具体的行動行動策定短期経営計画経営戦略を実行する具体的計画成果測定(KPI)短期〜中期経営理念企業の価値観・在り方倫理・哲学永続的マーケ戦略経営戦略の下位(機能戦略の1つ)顧客・市場対応中期①企業戦略・事業戦略との違い企業戦略は全社戦略とも呼ばれ、経営戦略の中で『企業全体の方向性』を扱う最上位の層です。事業戦略は『個別事業の方向性』を扱う中間層。両者とも経営戦略の一部であり、経営戦略はこれらに加えて『機能戦略』も含む3階層の総称です。②経営戦術との違い経営戦術とは、経営戦略を実行するための具体的な行動を指します。経営戦略が『何をするか(方向性)』を定めるのに対し、経営戦術は『どう実行するか(手段)』に踏み込みます。例えば『海外進出』が戦略なら、『どの国に・どの製品を・どの販売チャネルで投入するか』が戦術です。ただし両者の境界は実務上ややあいまいで、企業によっては経営戦略と経営戦術をほぼ同義に使う場合もあります。③経営計画との違い経営計画は経営戦術と同じく、経営戦略を実行するためのアクションプランです。違いは焦点で、経営戦術が『行動の策定』に重きを置くのに対し、経営計画はKPIの設定や予算配分など『成果の測定』に重点を置きます。上場企業が発表する『中期経営計画』は、この経営計画の代表例です。④経営理念との違い経営理念とは、企業の価値観や理想像を社内外に表現する根底概念で、企業哲学とも呼ばれます。経営戦略が『3〜5年スパンの実現可能な方針』であるのに対し、経営理念は『創業から不変の倫理的・哲学的な指針』として位置づけられ、両者は時間軸と性質が異なります。⑤マーケティング戦略との違い経営戦略とマーケティング戦略は、しばしば混同されますが階層関係にあります。マーケティング戦略は、経営戦略の3階層の最下層『機能戦略』に属する1つで、顧客・市場への対応方針を定めるものです。つまり順序としては、まず経営戦略(全社戦略・事業戦略)で『どの市場でどう戦うか』を決め、その実行手段としてマーケティング戦略で『誰に・何を・どう届けるか』を設計します。マーケティング戦略単独で経営戦略の代わりにはなりません。経営戦略の立て方4ステップ経営戦略は、以下の4ステップで立案するのが基本です。各ステップの概要を押さえ、より詳細な手順は専門記事を参照してください。ステップ1:内部環境と外部環境の分析まず内部環境(自社の強み・弱み・経営資源)と外部環境(市場規模・競合・顧客ニーズ・将来リスク)を分析し、自社の現在地を明らかにします。代表的な分析手法は、後述するフレームワーク(3C・SWOT・PESTなど)です。ステップ2:目標の決定・明確化分析結果をもとに、企業としての目的と行動指針を明確化します。既存事業の強化/事業の絞り込み/新規事業開発のいずれを軸とするかを判断し、全社戦略の方向性を決めます。【関連記事】新規事業の立ち上げを検討している方は、関連記事「新規事業の立ち上げ方|担当者が知るべき5つのポイントと注意点」もご覧ください。ステップ3:戦略の策定全社戦略の方向性が固まったら、事業戦略と機能戦略を順に策定します。各部門の責任者も参加して意見をすり合わせ、現場で実行可能なアクションプランに落とし込みます。機能戦略段階で前提との矛盾が見つかった場合は、上位の戦略や環境分析に立ち戻る柔軟性も必要です。ステップ4:社内全体での情報共有策定した戦略を社内全体に共有します。経営層から現場まで全員が同じ方向を理解することで、全社一丸となった取り組みが可能になります。評価指標(KPI)を明確に公表することで、社員のモチベーション向上にもつながります。【関連記事】策定プロセスの実務的な手順は「経営戦略の立て方|7ステップとフレームワーク8選で実行まで解説」をご覧ください。立てた戦略がうまく実行できない場合は「戦略実行ができない7つの原因|成果につなげる5ステップと組織づくり」が参考になります。戦略立案を一人で抱え込んでいませんか?経営戦略の立案・実行を経験したプロ人材による壁打ち相談はこちらから。経営戦略の代表的な種類経営戦略には方向性によって複数のタイプがあります。ここでは経営学で広く知られる代表的な6つの戦略を紹介します。なかでもマイケル・ポーター氏が提唱した『3つの基本戦略(コストリーダーシップ/差別化/集中)』はワンセットで押さえておくと理解が深まります。戦略1:ブルーオーシャン戦略「ブルーオーシャン戦略」とは、競合相手がまったくいない、あるいは著しく少ない市場を新たに開拓して収益を上げる戦略です。韓国の経営学者W.チャン・キム氏と、アメリカの経済・経営学者レネ・モボルニュ氏が提唱した概念で、「血で血を洗う争いが必要な過酷な市場(レッドオーシャン)を離れ、血が流れない海を目指す」という思想に基づいています。戦略2:コストリーダーシップ戦略「コストリーダーシップ戦略」とは、商品・サービスを競合他社よりも安価に提供し、市場における主導権を握る戦略です。大量生産や作業工程の効率化などのコスト削減策を徹底し、安く提供しても利益が出る状況を構築することを目指します。ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏が提唱したことから注目されています。戦略3:差別化戦略同じくマイケル・ポーター氏が提唱した、コストリーダーシップの真逆とも呼べるプランが「差別化戦略」です。自社ならではの魅力を構築して商品・サービスを差別化したうえで競合よりも高額な価格帯で提供し、終わりのない価格競争からの離脱を図ります。いわゆるハイブランドを目指す戦略です。【関連記事】差別化戦略を実現するためのブランド構築については、「リブランディングの進め方|成功事例と4つの実践手順を紹介」で詳しく解説しています。戦略4:集中戦略マイケル・ポーター氏の『3つの基本戦略』のうち、最後の1つが集中戦略です。特定の顧客層・地域・製品セグメントに経営資源を集中投下し、その狭い市場で優位性を築く戦略を指します。集中戦略はさらに2タイプに分かれます。低価格で攻める『コスト集中型』と、独自性で攻める『差別化集中型』です。大企業と正面から競合できない中小企業や、ニッチ市場を狙うスタートアップが採用するケースが多く見られます。戦略5:多角化戦略「多角化戦略」とは、「経営戦略の父」とも呼ばれるイゴール・アンゾフ氏が提唱した成長マトリクスの一つです。現在の主戦場とは異なる新規市場に新規商品・サービスを売り出すことで、新たな収益の柱を手にします。成功すれば経営の安定化を強く実現できる一方、市場開拓と商品開発といった2種類のコストがハードルとなります。戦略6:グローバル戦略「グローバル戦略」とは、国内を越えて海外市場を開拓し、世界的な枠組みで活躍を目指す戦略です。商品やサービスを直接輸出することはもちろん、ライセンス提供やフランチャイズ募集により現地でビジネスパートナーを見つける手法も考えられます。IT技術の発展により国境の垣根が越えやすくなる中、現代企業にとって欠かせない経営戦略の一つです。【6つの代表的戦略の比較表】戦略狙い向く企業ブルーオーシャン新市場の開拓新規参入・スタートアップコストリーダーシップ低価格で主導権獲得大量生産が可能な企業差別化独自性で価格競争回避ブランド資産がある企業集中ニッチ市場で優位中小企業・ニッチ志向多角化新収益柱の構築資金余力のある企業グローバル海外市場開拓国内市場が成熟した企業経営戦略の立案に役立つフレームワーク経営戦略の立案では、自社の経営課題と環境を客観的に把握することが出発点になります。ここでは代表的な4つのフレームワークを紹介します。使い分けの目安は外部環境=PEST/3C内部環境=SWOT/3C市場選定=STPです。フレームワーク1:3C分析Company(自社)・Customer(市場・顧客)・Competitor(競合)の3Cを分析する手法。外部環境(市場・顧客・競合)と内部環境(自社)の把握を進める。【関連記事】3C分析を実際に活用したい方は、「【テンプレ付き】3C分析のやり方|失敗しない進め方と戦略への活かし方を解説」もあわせてご覧ください。フレームワーク2:SWOT分析Strengths(強み)・Weaknesses(弱み)・Opportunities(機会)・Threats(脅威)の4要素を整理する手法です。内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を統合的に俯瞰でき、経営戦略の方向性を決める基礎情報になります。【関連記事】詳細な進め方は『SWOT分析の進め方|事例付きで基本から実践までわかりやすく解説』を参照してください。フレームワーク3:PEST分析Politics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術)の4視点からマクロ環境を分析する手法です。自社ではコントロールできない外部要因を整理することで、中長期のリスクと機会を予測できます。【関連記事】詳細は『PEST分析の進め方と注意点|7ステップで基礎から実践まで解説』をご覧ください。フレームワーク4:STP分析Segmentation(市場細分化)・Targeting(標的選定)・Positioning(差別化位置)の3ステップで市場を選定する手法です。複数ある市場の中から自社がどこで戦うかを決め、その市場での立ち位置(価格帯・品質帯)を判断します。【関連記事】STP分析の具体的な手順については、「STP分析の進め方|準備から戦略立案まで7ステップで解説」をご参照ください。その他、経営課題を整理するためのフレームワークをさらに知りたい方は、「経営課題の解決に使えるフレームワーク9選|目的別の選び方と活用ポイント」も参考になります。中期経営戦略とは『中期経営戦略』とは、3〜5年程度の中期スパンで策定される経営戦略を指します。長期ビジョン(10年以上)と短期計画(1年)の中間に位置し、最も実行可能性が高いスパンとして多くの企業が重視しています。【経営戦略の時間軸】時間軸呼称主な内容1年以内短期計画/年度計画数値目標・予算配分3〜5年中期経営戦略/中期経営計画事業ポートフォリオの転換、新規事業立ち上げ10年以上長期ビジョン/長期経営戦略企業像・社会的役割の設定上場企業の多くは『中期経営計画』として中期経営戦略を文書化・公開しており、株主や従業員に対する説明責任の意味も果たしています。中小企業でも、銀行融資や事業承継の場面で中期経営計画の提示を求められるケースが増えています。まとめ|経営戦略の立案にプロ人材という選択肢本記事では、経営戦略の定義・3つの分類・関連用語との違い・立て方・代表的な戦略タイプ・フレームワークを解説しました。要点を再確認すると以下のとおりです。経営戦略とは企業が中長期で成長するための方針・計画である全社戦略・事業戦略・機能戦略の3階層に分類できる立て方は『環境分析→目標設定→戦略策定→社内共有』の4ステップが基本経営戦略にまつわる用語・理論・フレームワークは多岐にわたります。社内だけで立案・実行を完結するのが難しい場合は、外部のプロ人材の活用も有効な選択肢です。経営戦略の立案・実行に、プロ人材という選択肢経営戦略を成功させるには、的確な環境分析と、全社から部門レベルまで一貫した戦略設計が不可欠です。しかし『立案経験を持つ人材が社内にいない』『専任リソースがない』『フレームワークは知っていても自社への適用方法がわからない』といった壁に直面する企業は少なくありません。こうした課題に対しては、経営戦略の策定・実行経験を持つプロ人材・顧問の活用が有効です。3C・SWOT・PEST・STPなどの環境分析から、3階層の戦略設計、社内浸透までを伴走支援できます。客観的視点での課題発見や、経営層の壁打ち相手としても機能します。マイナビProfessional サービス紹介マイナビProfessionalは、経営戦略の策定から実行までを支援するプロ人材・顧問サービスです。戦略コンサルティングファーム出身者や、大手企業で経営企画・事業戦略を統括してきたプロフェッショナルが、環境分析・目標設定・戦略策定・社内共有の各ステップを伴走支援します。6万人超のプロ人材データベースから、貴社の業界・課題に最適な人材を選定。マイナビ専任チームが課題整理から進行管理まで担うため、『戦略を立てても実行できない』という事態を防ぎ、ノウハウの社内蓄積まで見据えた支援が可能です。課題が整理できていない段階でも、まずはサービス資料をご覧いただき、お気軽にご相談ください。