この記事でわかること人的資本経営の基本と従来の人材戦略との違い人的資本経営が注目される社会的背景企業が得られる具体的なメリット実践企業の事例実践に向けた具体的なステップと重要ポイント情報開示の要件はじめに近年、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えています。とはいえ、「人的資本経営の意義がよく分からない」「何から始めればよいのか見当がつかない」といった声も少なくありません。実際、フォーバルGDXリサーチ研究所が2025年に実施した調査では、中小企業の6割以上が「取り組めていない」と回答しています [1]。そこで本記事では、人的資本経営の基本的な考え方から実践のステップまでを、わかりやすく解説します。自社に合ったアプローチを見つけるヒントとして、ぜひご活用ください。人的資本経営とは何かまず、人的資本の概念について整理したうえで、人的資本経営とは何かを、従来の経営手法との違いを踏まえてご説明します。「人的資本」とは人的資本とは、社員が持つ能力、経験、意欲などを企業の「資本」として捉え、戦略的に活用する考え方です。たとえば、専門的なスキル、業務を遂行する力、新しいことに挑戦する姿勢などは、人的資本の一部とされます。企業が保有する資本は、「有形資本」と「無形資本」に大別されます。人的資本は、特許やブランドといった知的資産と並ぶ無形資本の一つとして、企業価値の向上において重要な役割を果たします。以下は、人的資本の具体例です。<人的資本の具体例>分類具体例・説明スキルプログラミング、デザインなどの専門的な技術や能力知識医学、工学、美容、金融などの分野に関する体系的な知識経験・ノウハウ実務を通じて培われた実践的な知識や技能意欲 自己実現や成長を目指す前向きな姿勢や挑戦する意識得意・好きなこと才能や興味を持つ分野、創造性を発揮できる領域労働力・時間業務や活動に充てられる時間、集中力、体力などの人的リソース このように、人的資本とは、企業の競争力や価値創造に貢献する従業員が持つ多様な無形資源で構成されています。人的資本経営の定義と従来の人材戦略との違い人的資本経営とは、人材を企業の重要な「資本」と位置づけ、その潜在的な価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上を目指す経営手法です。従来の人材戦略と何が異なるのかそれぞれの以下にご紹介します。 従来の人材戦略との違い従来の人材戦略との最大の違いは、人材を「コスト」ではなく「投資対象」として捉える点にあります。人的資本への投資によって創出される成果や価値を可視化し、それを基盤に、戦略的かつ継続的な人材マネジメントを実践することが求められています。経済産業省が提唱する「人材版伊藤レポート」に基づき、人的資本経営の考え方から従来の人材戦略との違いを以下に整理しました。観点従来の人材戦略人的資本経営人材の位置づけ資源(コスト)資本(投資対象)目的人材管理の効率化企業価値の向上個人と組織の関係相互依存(囲い込み、同質性の重視)自律・共創(相互に選択、多様性を重視)雇用関係固定的(終身雇用、新卒一括採用)流動的(選択・選ばれる関係、経験採用)対話の在り方対社内(内部管理、会社から従業員への一方向)社内外(社内外の全ステークホルダー、双方向)意思決定勘・経験重視データ・客観指標重視主導者人事部門経営層このように、これからの人材戦略では、人材を企業価値創造の源泉と位置づけ、経営層が主導して客観的なデータを活用しながら、共創型の雇用関係を構築することが不可欠です。人的資本経営が注目される背景人的資本経営への関心が高まっている背景には、以下の4つの要因が挙げられます。背景1:働き方の多様化非正規雇用や外国人労働者、リモートワークの普及など、働き方は年々多様化しています。実際、厚生労働省の発表によれば、2024年10月末時点で日本の外国人労働者数は約230万人に達し、前年比12.4%増と過去最多を更新しました[2]。こうした状況の中、従来の画一的な人材管理では対応が困難になっており、個々の能力を最大限に引き出す柔軟かつ戦略的な経営手法への転換が求められています。背景2:投資家からの要請投資判断においては、財務情報に加えて非財務情報、特に人的資本の重要性が高まっています。日経BP Human Capital Onlineが報じたリンクアンドモチベーションの2023年調査によると、「非財務資本の中で、より開示が必要だと思う項目」として「人的資本」が「社会関係資本(ステークホルダーとの信頼など)」と並び、59%で最多となりました。さらに、「人的資本は企業の成長に影響を与えるか」という設問に対しては、86%の回答者が「はい」と答えており、多くの投資家が人的資本と企業業績との関連性をすでに認識していることが明らかになっています[3]。このように、企業の持続的成長を見極めるうえで、投資家は人材への投資状況や人材戦略の開示を重要な判断材料として位置づけるようになっています。背景3:世界的な潮流ESGやSDGsへの関心の高まりに伴い、人材への投資は企業の社会的責任の一環として評価されるようになっています。特にSDGs目標8「働きがいも経済成長も」は、人的資本経営と密接に関連しており、企業の人材戦略に対する社会的期待が高まっています。 こうした流れの中、国際標準化機構(ISO)は2018年12月に、人的資本の情報開示に関するガイドライン「ISO 30414」を発表しました。これは、企業が人的資本にどのように取り組んでいるかを可視化し、ステークホルダーに対して説明責任を果たすための枠組みです。 企業の持続的な成長は、事業の中核を担う従業員のスキルや、社内の対話を通じて生まれるイノベーションによって支えられています。グローバル化や情報技術の進展により働き方や価値観が大きく変化する中、人的資本の開示は、企業の競争力と信頼性を高める重要な手段となっています。 背景4:DX時代の経営戦略デジタル化の進展により、定型業務の自動化が進む中、人材の役割は「作業」から「価値創造」へと世界的にシフトしています。イノベーションの源として、人的資本の重要性は高まる一方、日本はDXを含む企業変革で諸外国に後れを取っており、日本的経営がその柔軟な対応を阻んでいると指摘されています。資源に乏しい日本にとって、人的資本は数少ない競争優位の源泉であり、非財務資産としての戦略的価値は極めて高いものです。IMDの2024年「デジタル競争力ランキング」で日本は31位にとどまっており、DXの加速と人的資本の活用は喫緊の課題となっています[4]。 背景5:日本における情報開示の制度化2022年8月、内閣官房より「人的資本可視化指針」が公表され、これに伴い2023年3月期以降の有価証券報告書において、上場企業約4,000社に対して人的資本に関する情報開示が求められるようになりました。開示項目は以下の3領域に分類され、具体的な指標の提示が求められています。人材育成:研修時間、研修費用、参加率など流動性:離職率、定着率、採用コストなどダイバーシティ:男女間賃金差、育児休業復帰率などこの指針は、人的資本の定量的・定性的な可視化を通じて、企業価値の向上とステークホルダーへの説明責任を果たすことを目的としています。このように、人的資本経営が重要視されるようになったのは、世界的な価値観の転換と、日本特有の社会的課題が重なり合っていることが背景にあります。人的資本経営に取り組むメリット企業が人的資本経営を推進することで、以下のような多面的なメリットが期待されます。メリット1:生産性の向上人材への投資により従業員のスキルが向上すれば、業務効率が高まり、組織全体の生産性向上につながります。具体的な取り組みの例として、ベネッセコーポレーションでは、21万以上のコースを提供するビジネス系デジタル動画プラットフォーム「Udemy Business」を導入し、従業員が自由に学習できる環境を整備しています。こうした取り組みの結果、2024年度の研修プログラムには延べ4,663人が参加し、前年比116.5%の増加となりました。[5]メリット2:企業ブランディングの強化人材育成に積極的な企業は、「働きたい企業」として認識され、優秀な人材を惹きつけます。結果として、採用力の強化と社会的信頼の向上が実現します。たとえば伊藤忠商事では、人事施策を体系的に組み合わせた人材戦略を、経営戦略の一環として明確に位置づけています。 同社は、ビジネスモデルを支える原動力として、社員一人ひとりの「個の力」を最大限に引き出すことに注力しています。その取り組みの成果として、2020年に「大学生が選ぶ就職人気企業ランキング」で第1位を獲得し、以降6年連続で首位を維持しています [6] [7] 。メリット3:従業員の能力可視化人材育成によって従業員の能力やスキルが明確になることで、適材適所の配置が可能となり、タレントマネジメントの基盤としても活用できます。たとえばダイキン工業では、人的資本経営の推進に向けて、社内大学制度を活用した長期的なデジタル人材の育成に取り組んでいます。AIの活用、AI技術の開発、システム開発などを担う人材を育てることで、組織全体のデジタル力を強化しています。さらに、タレントマネジメント体制「DAIKIN PEOPLE」の整備を通じて、個々の人材の能力を可視化し、戦略的な配置や育成を実現しました。こうした人的資本への継続的な投資の成果として、2018年から2023年の5年間でTFP(全要素生産性)は年率6.5%の上昇を達成しています [8]。メリット4:エンゲージメントの醸成人的資本経営を実践することで、従業員のモチベーションや企業への帰属意識が高まり、結果として定着率の向上や離職率の低減につながります。 取り組みの例として、オムロンでは、従業員エンゲージメントの向上を目的として、経営層がグローバル全社員の声に耳を傾けるサーベイ『VOICE』を2016年度から継続的に実施しています。初回(2016年度)は、対象者21,911名に対して77%の回答率であったのに対して、2020年度の調査(対象者:21,287名)では回答率が90%に達しました。さらに、社員から寄せられたフリーコメントは40,453件にのぼり、同社はこれらの声をもとに職場環境や人材施策の改善に取り組んでいます [9][10]。メリット5:投資家からの評価向上近年、人的資本経営への関心が高まる中で、企業の取り組みが投資家から注目を集めています。特に、従業員の育成や働きがいのある職場づくりに力を入れる企業は、透明性の高い情報開示を通じて信頼を獲得し、結果として投資額の増加につながる可能性があります。三菱UFJ信託銀行が実施した調査によると、人的資本に関するデータと企業価値・収益性との間には一定の関連性が見られることが明らかになりました。さらに、人材育成に積極的な企業や、女性社員の比率が高い企業を評価することで、株価リターンの向上やリスクの抑制といった効果が期待できる可能性も示されています[11] 。人的資本への投資は、企業価値の向上に直結する戦略的施策として、その重要性が一層高まっています。人的資本経営の実践ステップ人的資本経営を効果的に進めるには、以下の6つのステップで体系的に取り組むことが重要です。ステップ1:経営戦略の明確化まずは、自社の経営戦略を明確にします。企業が目指す方向性や事業目標を定義することで、人材戦略の土台を築きます。ステップ2:人材戦略の策定経営戦略と連動する形で、人材戦略を立案します。現状の課題と理想とのギャップを把握し、どのような人材を育成・配置すべきかを検討します。経営層との共通認識を形成することが、実効性を高める鍵となります。 ステップ3: KPIの設定人的資本経営は中長期的な取り組みとなるため、「いつまでに何を実現するか」をKPIとして明確にします。数値化が難しい要素については、施策の進捗状況をKPIとして設定するのも有効です。<例>研修プログラムの実施率1on1ミーティングの実施頻度キャリア面談の実施状況ステップ4:施策の実行策定した人材戦略とKPIに基づき、研修・制度設計・配置などの具体的な施策を実行します。現場との連携を図りながら、着実に進めることが重要です。ステップ5:効果検証施策の成果を定期的に検証します。エンゲージメントサーベイや業績データなどを活用し、理想と現状のギャップを把握します。ステップ6:改善と次のステージへ目標達成状況を確認し、未達の場合は改善策を検討します。達成されていれば、次のステージへ進み、さらなる成長に向けた戦略を展開します。このサイクルを継続的に回すことで、人的資本経営の質を高めていきます。人的資本経営は、経営と人材を結びつける戦略的な取り組みです。6つのステップを着実に進めることで、従業員の力を最大限に引き出し、企業の持続的な成長と価値向上につなげることができます。人的資本経営を成功させる重要なポイント実践にあたっては、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。ポイント1:情報開示を目的化しない人的資本経営において情報開示は重要な要素ですが、それ自体が目的ではありません。真の目的は、従業員が働きやすい環境を整備し、人材の価値を最大限に引き出す施策を実行することにあります。実際、アビームコンサルティングが行った調査では、人的資本経営の情報開示に取り組むべき理由について、成長企業とマイナス成長企業の間で異なる傾向が見られました。ブランドイメージの向上など、外部へのアピール効果に対する期待はマイナス成長企業の方が高い一方で、従業員の労働生産性向上や組織改革といった内部施策への意識は、成長企業の方が強い傾向にあることが明らかになっています[12]。この結果は、人的資本経営の情報開示が単なる広報手段ではなく、企業の持続的成長や組織力強化に直結する戦略的な取り組みであることを示唆しています。ポイント2:経営戦略との紐付けを徹底する人材戦略は、中長期的な経営戦略の実現に向けて策定されるべきものです。そのためには、まず経営戦略が社内で十分に共有されているかを確認し、その上で人材戦略を検討することが重要です。実際、人的資本経営コンソーシアムが実施した調査によると、経営戦略と人材戦略の連動に取り組んでいる企業は全体の7割を超えており、多くの企業がこの方向性での実践を進めていることが明らかになっています。このデータは、人的資本経営が単なる人事施策ではなく、経営の中核に位置づけられていることを示しています [13] 。ポイント3:全社的な取り組みとする人的資本経営は、単なる人事施策にとどまらず、企業全体で取り組むべき経営課題です。財務や広報など、各部門が目標を共有し、連携して実行することが、成果につながります。サイバーエージェントでは、従業員のスキルやキャリア志向をデータベース化し、人的資本への戦略的投資と、それを支える組織対応を一体的に推進してきました。経営参加型の意思決定プロセスや人材施策との連動により、2018〜2023年の5年間でTFP(全要素生産性)が年率5.8%上昇するという成果を実現しています[14]。このように、全社的な人的資本経営への取り組みとガバナンスの強化は、企業の持続的成長と企業価値の向上を支える重要な要素として位置づけられます。 人的資本の情報開示についてそれでは、具体的に上場企業には、どのような情報開示が義務付けられているのでしょうか?開示が求められる情報前述のとおり、2023年3月期から、上場企業には人的資本に関する情報開示が義務化されています。この動きは、企業の透明性や人材戦略への信頼性を高めることを目的としており、投資家や社会からの関心も急速に高まっています。では、具体的にどのような情報の開示が求められているのでしょうか。必須開示項目上場企業は、以下の3つの領域に関する情報を開示する必要がありますサステナビリティに関する考え方と取り組み人的資本・多様性に関する情報・女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差コーポレートガバナンスに関する情報これらは、人的資本の定量的・定性的な状況を把握するための基礎情報として位置づけられています。開示のポイント投資家やステークホルダーが特に注目するのは、単なる数値の羅列ではなく、企業の戦略と人的資本との関係性を示す「ストーリー性のある開示」です。具体的には、以下のような観点が重要です。経営戦略と人材戦略の関連性を明確に示す重要なKPI(主要業績指標)を定量的に開示する人的資本と価値創造の関係を具体的に説明する従業員のキャリア形成支援の現状と考え方を示す人材ポートフォリオに対する企業の方針や考え方を開示するこれらの情報は、企業の持続的成長力や人的資本への投資姿勢を評価する上で、極めて重要な判断材料となります。 よくある質問(FAQ)Q1. 中小企業でも人的資本経営に取り組むべきですか?はい、人的資本経営には積極的に取り組むべきです。現在、情報開示義務の対象は上場企業に限られていますが、人材への戦略的投資による生産性向上や優秀な人材の確保は、企業規模を問わず重要な経営課題です。むしろ中小企業こそ、限られた人材を最大限に活かす人的資本経営の考え方が、競争力の強化につながります。まずは自社の状況に応じて、できる範囲から着実に取り組みを始めることが、持続的な成長への第一歩となります。Q2. 人的資本経営の効果はどのくらいで現れますか?人的資本経営は中長期的な取り組みであり、即効性を期待するものではありません。ただし、従業員エンゲージメントの向上など、初期的な変化は施策開始から数ヶ月で現れることがあります。財務的なインパクトについては、1〜3年程度の時間軸で捉える必要があります。重要なのは、短期的な成果にとらわれすぎず、継続的に改善サイクルを回しながら、人的資本への投資を着実に積み重ねていくことです。Q3. 既存の人事制度を大きく変える必要がありますか?人的資本経営の導入にあたって、必ずしも全面的な刷新が求められるわけではありません。まずは、現状の人事施策を整理し、経営戦略との連動性を明確にすることから始めるのが現実的です。そのうえで、ギャップのある領域を段階的に改善していくことで、着実な変革につなげることができます。重要なのは、人材を「資本」として捉える視点への転換と、データに基づく意思決定を組織に根付かせることです。これにより、人的資本への投資が企業価値の向上に直結する経営基盤となっていきます。Q4. 人的資本経営の推進は誰が主導すべきですか? 人的資本経営の推進には、経営層、特にCEOやCHRO(最高人事責任者)が主導することが不可欠です。人事部門だけの取り組みではなく、経営戦略と一体となって進める必要があります。理想的には、経営層が明確なビジョンを示し、人事部門が実務を担い、各部門が連携して取り組む全社的な体制を構築することが求められます。こうした体制のもとで、経営層が人的資本への投資に強くコミットすることが、取り組みの成否を左右する重要な要素となります。Q5. 何から始めればよいですか?人的資本経営の第一歩は、自社の経営戦略を明確にし、それを実現するために必要な人材像を描くことから始まります。次に、現状の人材データを整理し、理想とのギャップを把握することで、課題が可視化されます。そのうえで、優先度の高い施策から着手し、完璧を目指すのではなく、小さく始めて改善を重ねるアプローチが効果的です。人事データの一元管理も、戦略的な意思決定を支える重要な基盤となります。Q6. 情報開示は義務化されていない企業も行うべきですか?人的資本の情報開示は任意ではありますが、取り組むメリットは非常に大きいと言えます。開示を通じて、投資家や求職者からの信頼が高まり、優秀な人材の獲得につながる可能性があります。また、開示準備のプロセス自体が、自社の人材戦略を見直す貴重な機会にもなります。まずは社内向けに人的資本の状況を可視化し、段階的に外部開示へと展開していくことが、現実的かつ効果的なアプローチです。Q7. 人的資本経営とタレントマネジメントの違いは何ですか?タレントマネジメントは、人的資本経営を実現するための重要な手段の一つです。人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、企業価値の向上を目指す経営全体の考え方を指します。一方、タレントマネジメントは、個々の従業員の能力やスキルを可視化し、最適な配置や育成を行うための具体的な人事施策です。人材の価値を最大限に引き出すという点で、両者は密接に結びついており、戦略的に連動させることで、より高い成果が期待できます。Q8. 投資対効果をどう測定すればよいですか?人的資本経営の成果について、完全な因果関係を証明することは難しいものの、相関関係を示すことは十分に可能です。たとえば、研修投資額とエンゲージメントスコア、エンゲージメントと生産性、生産性と売上の関係などを分析することで、人的資本への投資が企業成果に与える影響を可視化できます。また、離職率の低下による採用コストの削減など、定量化しやすい指標から着手するのも有効です。こうした分析を支えるのは、継続的なデータ収集と検証のプロセスです。人的資本経営の効果を見極めるには、データに基づく評価と改善のサイクルを根付かせることが不可欠です。Q9. DXとの関係はどう考えればよいですか?DX(デジタルトランスフォーメーション)と人的資本経営は、相互に補完し合う関係にあります。DXによって定型業務が自動化されることで、人材はより創造的・付加価値の高い業務に集中できるようになります。一方で、DXを推進するには、デジタルスキルを備えた人材の育成が不可欠です。人的資本経営の視点からリスキリングを進めることが、DXの成功を左右する重要な要素となります。両者を分けて考えるのではなく、一体的に推進することで、組織全体の生産性と競争力を高めることが可能になります。 まとめ人を活かす経営が、企業価値を左右する時代を迎えています。人的資本経営は、すべての社員が能力を最大限に発揮できる環境を整え、組織全体の力を引き出すための戦略的な取り組みです。変化の激しい現代において、企業の持続的な成長を支える重要な要素として、その実践はますます求められています。まずは自社の現状を正しく把握し、できることから着実に取り組みを進めることが、成功への第一歩です。人材の力を最大限に活かすことは、企業の未来を切り拓く原動力となります。企業と従業員がともに成長できる環境づくりに向けて、本コラムが貴社の人的資本経営の実践を後押しする一助となれば幸いです。人的資本経営の実践、「何から始めればいいかわからない」とお悩みではありませんか?本記事でご紹介したように、人的資本経営は経営戦略と人材戦略を連動させ、中長期的に取り組むべき経営課題です。しかし、社内に専門知見を持つ人材がいない、推進体制を構築するリソースが不足しているといった壁に直面する企業も少なくありません。「マイナビProfessional」 は、人事制度設計やタレントマネジメント、組織開発に精通したプロ人材が、貴社の人的資本経営の推進を支援するサービスです。戦略立案から現場での実行まで、マイナビ専任チームとプロ人材がチームとなって伴走し、取り組みを前に進めます。6万人超のプロ人材データベースから、貴社の課題に最適な人材をご提案。さらに、プロとの協働を通じて得られるノウハウは社内に蓄積され、支援終了後も自走できる組織づくりにつながります。「まずは現状の課題を整理したい」「どんな人材がいるのか知りたい」といった段階でも構いません。まずはお気軽にサービス資料をご覧ください。 参考文献・出典[1]PRTimes/フォーバル GDXリサーチ研究所「〈2025年度第1回 中小企業経営実態調査〉人的資本経営について「知らない」企業が6割超、また、「取り組めていない」企業も6割以上。」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000078.000117855.html[2]厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」2024年https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_50256.html[3]Human Capital「投資家が求める非財務指標は「人的資本」、「未来価値」を伝えるストーリーに期待」2023年https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00008/092600050/ [4]JETRO「世界デジタル競争力ランキング、スイスは2位に上昇、日本は31位」2024年https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/11/ff7f037c7896f12e.html[5]ベネッセホールディングス「人財の育成」https://www.benesse-hd.co.jp/ja/sustainability/esg/society/human.html[6] 伊藤忠商事「総合レポート2020」https://www.itochu.co.jp/ja/files/ar2020J.pdf[7]ダイヤモンド・ヒューマンリソース「「2025年【春】(26卒就活後半戦調査)大学生が選んだ就職人気企業ランキング」を発表しました」https://www.diamondhr.co.jp/news_index/3040/[8]三菱総合研究所「人的資本への取り組みを企業価値向上につなげるには」2025年https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20250626.html[9]オムロン「従業員との対話」https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/stakeholders/employee/[10]オムロン「企業理念経営を支える人財マネジメント」2021年https://www.omron.com/jp/ja/ir/irlib/pdfs/ar21j/OMRON_Integrated_Report_2021_jp_People.pdf[11]三菱UFJ信託銀行「人的資本の投資戦略への応用」2023年https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u202304_1.pdf[12]アビームコンサルティング「日本企業の人的資本経営取り組み実態調査」2022年https://www.abeam.com/content/dam/abeam/jp/ja/insights/human_capital_report/human_capital_report2022.pdf[13]人的資本経営コンソーシアム「人的資本経営に関する調査結果」2024年https://hcm-consortium.go.jp/pdf/2ndTerm_Survey_Results_v1.pdf[14]三菱総合研究所「人的資本への取り組みを企業価値向上につなげるには」2025年https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20250626.html