蓄積した人事データを活かしたいが、何をどう分析すればよいか分からない——そんな人事部長や経営層の方は少なくないはずです。AIやデータを使った従業員満足度や定着率の分析は、組織の競争力向上に直結します。本記事では人事データ分析の進め方を4ステップで、必要なデータ項目や企業事例とあわせて詳しく解説します。近年では「人的資本経営」への注目が高まっており、経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月)でも、人材を「資本」として捉え、データに基づく人材戦略の策定・実行が企業価値向上に不可欠であると提言されています。人事データ分析は、こうした人的資本経営を実装するための実務基盤として位置づけられつつあります。人事データ分析とは|HR・ピープルアナリティクスとの関係人事データ分析とは、勤怠・評価・離職率・サーベイなどの従業員データを統計手法やAIで分析し、人事施策や経営判断の精度を高める取り組みです。英語では「HRアナリティクス」、分析対象を全社の働き方や組織のつながりまで広げた概念は「ピープルアナリティクス」と呼ばれ、実務ではほぼ同じ意味で使われます。HR/ピープルアナリティクスとの違い人事データ分析(HRアナリティクス)は、人事部門が従業員満足度や定着率といった数値の改善を目的に行う分析を指します。一方ピープルアナリティクスは、コミュニケーションや組織ネットワークまで含め、全社横断でより広く解析する点が異なります。両者の違いは目的範囲と分析軸の広さにあり、自社の課題に応じて適切な範囲を選ぶことが重要です。人事データ分析の4つのタイプ人事データ分析は、目的に応じて大きく4つのタイプに分けて考えると整理しやすくなります。離職をテーマに、それぞれの違いを見てみましょう。記述的分析:「何が起きたか」を把握する。離職率や残業時間の推移を可視化する。診断的分析:「なぜ起きたか」を探る。離職と部署・評価・残業時間の相関を調べる。予測的分析:「今後何が起きるか」を推定する。離職予兆や不足しそうなスキルを事前に把握する。処方的分析:「何をすべきか」まで踏み込む。離職リスクの高い人材に、いつどんな施策を打つべきかを導く。多くの企業は、まず記述的・診断的分析から着手し、データ基盤が整うにつれて予測的・処方的分析へ段階的に高度化させています。自社がどの段階にあるかを見極めることが、無理のない第一歩になります。 人事データ分析で扱う主要なデータ項目人事データ分析で扱うデータは、大きく「属性データ」「勤怠データ」「評価データ」「サーベイデータ」の4種に整理できます。属性データ:氏名・所属・等級・雇用区分・異動履歴など勤怠データ:残業時間・出退勤・遅刻欠勤など評価データ:人事評価結果・目標達成度・スキル評価などサーベイデータ:満足度調査・エンゲージメント調査・面談記録などこれらを年代・部署・職種といった分析軸で掛け合わせることで、課題のある層を特定できます。重要なのは網羅的に集めることではなく、解きたい問いに必要な項目を見極めて統合することです。社内に散在しがちなデータをいかに一元化するかが、分析の精度を左右します。人事データ分析でわかること・導入メリット人事データ分析を行うと、勘や経験に頼っていた人事判断を客観的な数値で裏づけられます。代表的な活用領域は、パフォーマンス・従業員満足度・定着率の3つです。メリット1:パフォーマンス向上業務実績やプロジェクト貢献度を分析軸で比較すると、成果に結びつく要素が特定でき、人材配置の最適化につながります。経済産業省とリンクアンドモチベーションが職員約1,200名を対象に実施したパルスサーベイ調査でも、働きがい(エンゲージメント)とパフォーマンスに正の相関があることが示されています。出典:経済産業省/リンクアンドモチベーション「経済産業省のパフォーマンス向上に向けた職員の『働きやすさ』と『働きがい』の把握・分析に関する調査 最終報告書」(2023年3月)https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000748.pdfメリット2:従業員満足度の向上満足度調査や面談記録、勤怠データを組み合わせれば、部署・年代ごとの不満やモチベーション低下を早期に可視化できます。課題が明確になれば、福利厚生の再設計など具体的な施策へつなげられます。【関連記事】従業員満足度をエンゲージメントとして経営に組み込む手順については、「エンゲージメント経営の実践方法|導入手順と7つの施策を解説」で詳しく解説しています。 メリット3:定着率の改善過去の離職理由や在籍期間、評価制度の効果を分析すれば、退職予兆を早期に検知し、ターゲットを絞った定着施策を打てます。【関連記事】なお、評価制度の整備は離職率と相関する重要な変数です。設計から運用までの具体的な進め方は、「評価制度の見直し手順と離職率を下げる設計法」を併せてご確認ください。こうした分析により、意思決定の高速化・人材育成の最適化・業務効率の向上というメリットが同時に得られます。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」でも、データ活用による意思決定の迅速化・精度向上がDXの主要効果に位置づけられています。人事データ分析の進め方|4ステップ人事データ分析は、次の4ステップで進めると失敗しにくくなります。目的・仮説の設定:「離職率を下げたい」などの経営課題を、「若手の残業時間と早期離職に相関がある」など検証可能な仮説に落とし込む。データ収集・整備:勤怠・評価・サーベイなど必要な項目を一元化し、分析できる形に整える。分析:仮説に沿って相関や傾向を可視化し、成果につながる要素や危険信号を特定する。施策の実行・検証:分析結果をもとに施策を打ち、効果を再びデータで測って改善を回す。最初から完璧な分析を目指す必要はありません。小さな問いから着手し、成果を確認しながら対象を広げる進め方が現実的です。まずは自社のExcelでできる範囲から試すのも有効な第一歩です。実行体制の選び方分析を実行する体制は、大きく「自社の人事部門で対応」「クラウドシステムの活用」「外部サービスの活用」の3通りです。自社のリソースと課題の複雑さに応じて選びましょう。選び方1:自社の人事部門での対応自社対応は、データの収集・管理を見直し、分析軸を定めて可視化する方法です。レポーティング体制まで整えれば人事課題の早期発見につながりますが、分析スキルを持つ人材の確保が前提になります。選び方2:クラウドシステムの利用クラウドシステムは、複数のデータ項目をリアルタイムで可視化でき、外部データとのベンチマーク比較も容易です。選び方3:外部サービスの導入外部サービスは、自社だけでは不足する専門性やリソースを柔軟に補えます。とくに分析設計から運用定着までを一貫して内製で進めるのは難易度が高く、立ち上げ期は外部の専門知見を取り入れながら社内ナレッジを積み上げる方法が現実的です。マイナビProfessionalは、人事領域のデータ分析・組織開発に対応できるプロ人材を6万人以上のデータベースから紹介し、戦略立案だけで終わらず、実装と運用定着までを伴走支援する体制を整えています。【関連記事】データ活用を組織として推進する全体像については、「DX推進の組織づくり|3つのチーム編成パターンと成功のポイント」も参考になります。HRアナリティクス導入企業の事例 具体的な活用イメージをつかむうえで、先行企業の取り組みは参考になります。ここでは公表事例を2社紹介します。日立製作所:組織の幸福度を可視化する「Happiness Planet」日立製作所は、組織における「幸せになる力・幸せにする力」を可視化し、改善施策につなげる働き方改革支援サービス「Happiness Planet」を展開しています。センサーやアンケートデータを活用して従業員の行動・コミュニケーションパターンを分析し、組織傾向の把握と現場へのフィードバックを通じてエンゲージメントの向上を支援する取り組みです。 出典:日立製作所「Happiness Planet(幸せの可視化と改善による働き方改革支援)」https://deh.hitachi.co.jp/_ct/17467052 ソフトバンク:AIを活用した新卒採用選考の効率化ソフトバンクは、新卒採用選考のエントリーシート評価にAIを導入し、評価業務の効率化と判断軸の標準化を進めています。AIで一次評価を行うことで人事担当者の工数を削減しつつ、面接などの対人プロセスにリソースを集中させる体制を構築しており、HRアナリティクスを採用プロセスに実装した代表例といえます。 出典:ソフトバンク株式会社「新卒採用選考におけるIBM Watsonの活用について」(2017年5月29日)https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2017/20170529_01/ まとめ本記事では、人事データ分析の定義、4つの分析タイプ、扱うデータ項目、4ステップの進め方、実行体制、企業事例までを整理しました。人事データ分析は、ツール導入だけでなく、目的設定・データ整備・分析・施策接続までを一貫して進めて初めて成果につながります。人事データ分析の定着をプロ人材で加速する社内に分析人材がいない、進め方が分からない——そんなときは外部のプロ人材を活用する選択肢があります。マイナビProfessionalは、人事領域に精通したプロ人材を6万人以上のデータベースから紹介し、分析設計から運用定着までを伴走支援しています。