事業承継を検討する経営者にとって、大きな不安の一つが「いくら費用がかかるのか」という点です。税金や専門家への報酬は、承継方法や会社の規模によって大きく異なります。本記事では、事業承継に必要な費用相場と内訳、そして負担を抑えるための具体策をわかりやすく解説します。事業承継にかかる費用の概要と目安事業承継にかかる費用は、承継方法や会社規模、自社株や資産の評価額によって大きく変わります。特に、自社株の承継時に発生する相続税・贈与税や、税理士・M&Aアドバイザーなど専門家への報酬は高額になりやすいため、事前に把握しておくことが重要です。以下では、事業承継で発生する主な費用を簡潔に整理します。区分内容費用の目安主な項目税金承継時に発生する税負担数万円〜数千万円以上(資産額・承継方法による)・相続税・贈与税・譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税など専門家報酬株価算定、契約書作成、税務申告などの支援費用数十万円〜数百万円・税理士・公認会計士・弁護士・M&A仲介会社・FA登記・実費法的手続きに必要な実費数万円〜数十万円・代表者変更登記・不動産名義変更・証明書取得など【手法別】事業承継にかかる費用相場と内訳事業承継の費用は、親族内承継・従業員承継・M&Aのどれを選ぶかによって大きく変わります。発生する税金や専門家報酬、必要な資金が異なるため、自社に合った方法を検討するうえで、それぞれの費用相場を把握しておくことが重要です。承継方法主な費用項目費用の目安負担者親族内承継相続税・贈与税、税理士報酬数十万〜数百万円後継者・会社従業員承継株式取得資金、専門家報酬数百万円〜数千万円後継者・会社M&A仲介手数料(成功報酬)取引額の約5%(例:1億円→約500万円)売り手企業手法1:親族内承継の費用相場親族内承継で中心となる費用は、相続税・贈与税と税理士への報酬です。 M&Aのような仲介手数料は発生しないため専門家費用は比較的抑えやすい一方、自社株の評価額が高い企業では税負担が大きくなる場合があります。税理士へ依頼する内容は、自社株評価や相続税・贈与税の申告が中心です。 株価算定や申告のみであれば数十万円程度が目安ですが、自社株の評価額や相続財産の状況によっては、相続税・贈与税が数千万円規模になるケースもあります。また、事業承継税制の申請支援や承継計画の策定まで依頼する場合は、数百万円規模の費用が発生することもあります。 税負担を抑える方法としては、事業承継税制による納税猶予のほか、相続時精算課税制度や「配偶者の税額軽減」などの制度が挙げられます。特に自社株の評価額が高い企業では、制度の利用可否によって負担額が大きく変わるため、早い段階で専門家に相談し、必要な資金を試算しておくことが重要です。手法2:従業員承継の費用相場自社株の評価額が高い場合は、後継者が株式取得資金を準備する必要があります。そのため、金融機関のMBOローンや、後継者が設立する持株会社を使った方法が検討されます。資金調達や契約、株式取得の支援が必要になるため、税理士に加えてファイナンシャルアドバイザーが関わることも多く、専門家報酬は親族内承継より高くなる傾向があります。また、現経営者の個人保証を外すことも重要な課題です。経営者保証に関するガイドラインの特則を活用すれば解除を進められますが、金融機関との調整では弁護士や中小企業診断士の支援が必要になる場合があります。【関連記事】「社外CFOとは?役割・費用相場・CFO代行との違いと選び方を解説」手法3:M&Aの費用相場M&Aによる承継では、仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)への手数料が主な費用になります。費用は、相談料、着手金、中間金、成功報酬などで構成されますが、近年は着手金や中間金を設定しない完全成功報酬制の会社も増えています。レーマン方式では5%前後になるケースがありますが、最低手数料や報酬体系は会社によって異なります。また、多くの仲介会社では最低手数料が設定されているため、小規模なM&Aでは料率より最低手数料が優先される場合があります。契約前に料金体系を必ず確認しておきましょう。事業承継で発生する税金の種類税金の種類発生する主なケース目安・ポイント相続税経営者の死亡後に自社株・事業用資産を相続自社株評価が高いほど負担増 事業承継税制で猶予可贈与税生前に自社株を後継者へ移転年110万円超で課税相続時精算課税や税制で猶予可[1][2]譲渡所得税M&Aで株式を売却譲渡益に20.315%課税[3]登録免許税不動産名義変更・役員変更登記相続0.4%、贈与2%[4]不動産取得税不動産を贈与・譲渡で取得土地・住宅3%、非住宅4%(相続は非課税)[5]法人税・消費税事業譲渡時の譲渡益・資産譲渡株式譲渡では通常発生しない事業承継で発生する税金は、株式や事業用資産の移転方法によって大きく変わります。特に自社株の評価額が高い企業では、相続税・贈与税が大きな負担になるため、早めの試算が重要です。詳細は「事業承継で発生する税金の種類と計算方法」で解説しています。事業承継でかかる専門家報酬の相場 専門家主な業務費用の目安税理士・公認会計士・株価算定・相続税・贈与税申告数十万〜数百万円弁護士・契約書作成・法務リスク対応相談5,000〜10,000円/時、着手金・報酬金は案件次第M&A仲介会社・企業価値評価・買い手探索・交渉取引額の5%前後(最低手数料あり)専門家への報酬は、依頼する業務の範囲や案件の難易度によって大きく異なります。自社株の評価だけを依頼する場合と、事業承継計画の策定や税制の申請支援まで任せる場合では、費用に大きな差が生じます。税理士・公認会計士の費用相場税理士や公認会計士には、自社株の評価や相続税・贈与税の申告を依頼するのが一般的です。非上場株式の株価算定のみであれば数十万円程度から依頼できる場合があります。相続税や贈与税の申告報酬は、遺産総額の0.5〜1%程度を目安とする事務所が多く、事業承継税制の申請支援や承継計画の策定、組織再編の検討などを含めて依頼する場合は、業務内容に応じて費用が高くなる傾向があります。弁護士の費用相場弁護士には、契約書の作成や法務リスクへの対応、相続人間のトラブル予防などを依頼できます。費用は相談料、着手金、報酬金、実費で構成されるのが一般的です。相談料は1時間あたり5,000〜10,000円程度が目安で、初回相談を無料とする事務所もあります。着手金や報酬金は案件内容や経済的利益によって異なるため、依頼前に料金体系を確認しておくことが大切です。相続人が複数いる場合や株式が分散している場合は、トラブルを防ぐためにも早い段階で相談すると安心で、問題が生じてから対応するよりも、事前に法的なリスクを整理しておくほうが結果的に負担を抑えられるケースがあります。M&A仲介会社・アドバイザーの費用相場M&Aでは、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)への成功報酬が主な費用です。成功報酬はレーマン方式で計算されるケースが多く、会社売却価格が1億円で成功報酬率が5%の場合は約500万円が目安になります。企業価値評価やデューデリジェンス(買収監査)の費用が別途発生することもあり、着手金や最低手数料の有無は仲介会社によって異なるため、契約前に確認しておきましょう[8]。【関連記事】「」サルとアドバイザリーの違い|業務範囲・費用・契約形態で比較」事業承継の費用を抑える4つの方法方法内容効果事業承継税制自社株の相続税・贈与税を納税猶予税負担を大幅に軽減事業承継・引継ぎ補助金M&A費用や設備投資を補助専門家費用を削減融資制度株式取得資金や運転資金を借入手元資金が少なくても承継可能早期準備株価上昇前に承継を進める税負担を抑えられる事業承継にかかる費用は、税制や補助金などの公的制度を活用することで、大きく抑えられる可能性があります。ここでは、特に活用したい4つの方法を紹介します。方法1:事業承継税制(納税猶予)を活用する事業承継税制の特例措置を利用すると、一定の要件を満たした場合に、後継者が取得した非上場株式にかかる贈与税・相続税の納税が猶予されます。自社株の評価額が高い企業ほど効果が大きく、親族内承継や従業員承継を検討している企業にとって有力な選択肢です。制度を利用するには、特例承継計画の提出(2027年9月30日まで)贈与・相続による承継の実行(2027年12月31日まで)といった期限があります。期限を過ぎると特例が使えなくなるため、早めの準備が欠かせません。また、制度には事業継続などの要件があり、要件を満たせなくなった場合は納税猶予が取り消される可能性があります。適用判断や手続きは複雑なため、税理士や認定支援機関と相談しながら進めると安心です[6][7][8]。方法2: 事業承継・引継ぎ補助金を申請する事業承継・M&A補助金は、事業承継に伴う専門家費用や設備投資の負担を軽減できる制度です。特に、M&Aによる承継を検討している企業にとっては、FA(ファイナンシャルアドバイザー)や仲介会社への手数料、デューデリジェンス費用などが補助対象となるため、費用負担を大きく抑えられる可能性があります。補助金には複数の申請枠があり、目的に応じて使い分けます。事業承継促進枠:親族内承継・従業員承継に伴う設備投資など専門家活用枠:M&A時の仲介手数料・FA報酬などPMI推進枠:M&A後の経営統合に必要な費用申請は電子申請システム「Jグランツ」で行うため、事前にGビズIDプライムの取得が必要です。取得には時間がかかる場合があるため、補助金の活用を検討している場合は早めの準備が重要です。なお、補助対象となる費用や上限額は公募回によって変わるため、申請前に最新の公募要領を確認しておきましょう。方法3:資金不足の場合は融資制度を活用する手元資金が不足している場合でも、融資制度を活用することで事業承継を進められる場合があります。日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」では、事業承継に必要な設備資金や運転資金の融資を受けられます。融資限度額は制度区分によって異なりますが、国民生活事業では別枠7,200万円(うち運転資金4,800万円)が設定されています[9]。この制度は、後継者による自社株式の取得資金や、事業承継後の事業継続に必要な資金などに活用できます。特に、従業員承継で後継者が株式取得資金を準備する場合には、有力な選択肢の一つです。また、信用保証協会の「事業承継特別保証」も活用を検討できます。一定の要件を満たせば、経営者保証なしで融資を受けられる可能性があり、現経営者の個人保証を引き継がないための対策として有効です [10]。方法4:早期から専門家へ相談して計画を立てる有効な費用対策の一つが、早い段階から事業承継の準備を始めることです。直前になって準備を進めると、利用できる税制や補助制度を逃し、結果的に負担が大きくなる可能性があります。たとえば、事業承継税制を利用するには事前の計画策定や手続きが必要です。また、自社株の評価額を適正に管理するためには、役員退職金の活用や設備投資など、中長期的な視点で対策を検討する必要があります。まずは有料の専門家へ依頼する前に、全国に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所などの無料相談窓口を活用し、自社に必要な対策を整理するとよいでしょう[5]。【関連記事】「経営顧問とは?役割・報酬相場・探し方を経営者向けに徹底解説」事業承継の費用に関するよくある質問(FAQ)Q1. 事業承継の費用は誰が負担するのですか?税金と専門家報酬で負担者が異なります。贈与税や相続税は、自社株などの財産を取得する後継者が納めるのが一般的です。また、登録免許税や不動産取得税も、財産を取得する際に発生する税金として、取得者側が負担するケースが一般的です。一方、税理士や弁護士への報酬、M&A仲介会社への手数料は、会社または現経営者が負担するケースが多くあります。誰がどの費用を負担するかは、承継後のトラブルを防ぐためにも、事業承継計画の段階で整理しておきましょう。Q2. 費用をかけずに事業承継することは可能ですか?完全に無料で事業承継を完了することは、現実的には難しいです。自社株の評価や税務申告には専門知識が必要で、登記などの実費も発生します。ただし、初期段階の相談費用は抑えられます。事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所などの無料相談窓口を活用すれば、自社に必要な準備や進め方について相談できます。Q3. 自社株の評価だけを依頼する場合の費用はどれくらいですか?非上場株式の株価算定だけであれば、数十万円程度が目安です。費用は、株主構成の複雑さや保有する不動産・子会社の有無などによって変動します。事前に自社株の評価額を把握しておくことで、必要な納税資金や承継方法を検討しやすくなります。Q4. 経営者保証を外すのに費用はかかりますか?金融機関との保証解除交渉自体には手数料はかかりません。ただし、財務資料の整理や金融機関との交渉を専門家へ依頼する場合は、別途報酬が発生します。経営者保証に関するガイドラインの事業承継時の特則では、旧経営者と新経営者の双方に二重で保証を求めない取り扱いが原則とされています。状況に応じて、信用保証協会の事業承継特別保証なども検討するとよいでしょう。Q5. 事業承継税制を使うと税金はゼロになりますか?事業承継税制は、税金が免除される制度ではなく、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。後継者が取得した自社株にかかる税額について、一定の要件を満たすことで納税猶予を受けられます。納税猶予期間中に後継者が死亡するなど、一定の要件を満たした場合は、猶予されていた税額が免除されます。一方で、承継後の雇用維持や事業継続などの要件を満たせない場合、納税猶予が取り消され、猶予されていた税額と利子税を納付しなければならない場合があります。制度を利用する際は、税負担を軽減できるメリットだけでなく、承継後も継続的な管理が必要な制度であることを理解しておきましょう。まとめ:事業承継の準備をプロが伴走支援事業承継にかかる費用は、承継方法や会社の状況によって大きく異なります。税金や専門家報酬などの負担を事前に把握し、活用できる制度を検討することで、費用を抑えながら円滑な承継を進めることが可能です。本記事のポイントは以下のとおりです。 事業承継の費用は、税金・専門家報酬・登記などの実費で構成され、承継方法によって金額や負担者が異なる親族内承継・従業員承継・M&Aでは必要な準備や費用項目が異なるため、自社に適した方法を選択することが重要事業承継税制や補助金、融資制度を活用することで、税負担や専門家費用を軽減できる可能性がある費用負担を抑えるには早期準備が重要で、事業承継・引継ぎ支援センターなどの相談窓口も活用できるまた、事業承継では株式や経営権を引き継ぐだけでなく、承継後に会社を安定して成長させるための体制づくりも重要です。社内に必要な経験やノウハウを持つ人材が不足している場合は、外部のプロ人材を活用する方法も選択肢になります。 【関連記事】「経営人材の採用方法|6つのチャネル比較と失敗しない5ステップ」「経営戦略の立て方|7ステップとフレームワーク8選で実行まで解説」マイナビProfessionalは、経営戦略や事業開発、組織づくりなどの経験を持つプロ人材と企業をつなぐサービスです。事業承継の準備段階における計画策定から、承継後の経営体制整備まで、企業の課題に合わせた支援が可能です。豊富なプロ人材データベースから自社の課題に合った人材を選定でき、1名・最短3か月から柔軟に活用できます。事業承継後の成長戦略や組織づくりに課題を感じている場合は、まずはお気軽にお問い合わせください。参考文献・出典[1]「No.4402 贈与税がかかる場合」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm [2]「No.4103 相続時精算課税の選択」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm [3]M&Aサクシード「株式譲渡の税金はいくら?税率20.315%の計算例と節税方法【税理士監修】」2026年 https://ma-succeed.jp/content/knowledge/post-12474 [4]「No.7191 登録免許税の税額表」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm [5]「マイホームを持ったとき」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_1.htm [6]中小企業庁「事業承継」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/ [7]中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html [8]東京都産業労働局「特例措置について」 https://jigyo-shokei-zeisei.metro.tokyo.lg.jp/exceptional_measure [9]日本政策金融公庫「国民生活事業のご案内」2025年 https://www.jfc.go.jp/n/company/national/pdf/goannai_2025.pdf [10]全国信用保証協会連合会「ホームページ」 https://www.zenshinhoren.or.jp/